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「憲法」について考える [社会]

音楽評論家で世界最年長のディスクジョッキー(クラシック音楽の)であった吉田秀和の著書『千年の文化 百年の文明』という本をよんでいる。
吉田秀和氏の文体というのがあまりに素晴らしいので、今読んでしまうのはもったいない、何かの時に読もうと、書棚に飾っておいた。
第一章「昨日より今日、明日へと、自己改革をつづける日本の文明」の最初に、小題<青丹よし寧楽の都の>という文がある。
その中の始めに、『日本の社会に無理はないか』という小見出しで、「憲法」の話が出てくる。

すこし長く抜粋すると・・

「日本の社会、日本の文明のは、根本的なところで、何か大きな無理をふまえて、はじめて成立するようなものがあるのではないか。 ー略ー 
憲法改正の問題一つとってもそうだ。この頃になって。騒ぎが下火になったように見えるけれど、憲法をきめた当時の事情などという裏話を、雑誌や新聞で。小出しによまされたころ、私などまったく気持ちが悪くなった。あの制定当時の自分の態度について一貫した責任のある説明を与える政治家の何と少なかったことだろう。私にはひどくわからないことだらけだ。政治で本当にイニシアティヴをとっているのは、一体誰なのだろう?
政権をとっていた側は、占領軍に強制されたからだというふうにいっているようだが、そうすると強制されなければ、どうしたのだろうか。占領政策の行き過ぎを直すというが、行き過ぎるどころか、行かなすぎるとばかり考えている人たちも少なくないなかで、何が行きすぎで、何が中正かをきめられてしまうのは、私たちにはひどく不安だ。 ー略ー 」

この文は1958年に「音楽芸術」の二月号に載せられたもので、ああ、憲法はこのように、はるか以前から、気にくわないから変えよう、としてきた人いて、それでも守られてきたのだなあ、と感慨深い。

アベ首相が「国民の6,7割が憲法改正をすべきだと思っているのに、国会議員の3分の1は反対したら憲法を改正できないというのはおかしい」と言っているのを見て、私はびっくりしてしまった。
国民の6,7割が憲法改正に賛成などといつのまにそういうことになったのだろう。
一体どういう世論調査だったのだろう?日頃ニュースをていねいに見ていないから、そういうことも私にはわからない。
改正してもいいか、という問いが「憲法というものを変えてもいいか」という根本的なものなら、それは当然変えてもいいということになるだろう。国民の大多数がこうしたい、と思うなら、憲法といえども変えることになるはずだ。(もっとも戦時中は、国民の大多数が戦争するぞ、という気分であったことを忘れてはならないのだが)

ただアベ首相の、「国民の6,7割が望むなら、国会議員の3分の2ではなく過半数で改正できるようにする」という考えは、まったく論理的に破綻しているではないか。国民の大多数が望むようなことは、国会議員も大多数が賛成の立場をとるだろう。だって国民の代表なのだから。
3分の2なんて厳しくもなんともない。ただの過半数なんて、あまりの軽さにお話にならない。

原発については国民の7割以上が反対と言っていたのに、「原発続行」にしてしまったのは一体だれ?
まったくご都合主義のアベ政権である。
最近の国会予算委委員会などを見ていると、野党がもっともな質問や追求をすると、終始、「ごもっともです。そういうご意見を受け止め、わたくしどもも、そのように努力してまいりたいと思います」と、するりするりとその場をかわしていく術が、以前にくらべてずいぶん長けたものだ、と、あきれて(半ば感心して)見ていた。政権側としては何とか参院選までは国民にそっぽを向かれないように、苦心しているのだろう。

それでもやはり、ボロは出るものだ。
「国民の6,7割が改正に賛成しているのに・・・」発言の数日後、今度は「(改正かどうか)まずは、国民のみなさんがじゅうぶんに納得できる議論をすることが大事だと考えています」と、ニコニコ顔で弁明しているアベ首相だった。

戦前戦後の社会で一番大きく変わったのは、「日本国憲法」が三本の柱としている、
基本的人権の尊重・国民主権(主権在民)・平和主義(戦争の放棄)である。

つまり、国家ではなく、個人一人一人が、最大限、尊重されるということである。
こういう根源的な態度をもっていると感じられない政治家はまったく信用できないし、信用できない人間に「憲法改正」など、とてもまかせられる問題ではないと思う。

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jmh

最近気になる言葉のひとつに「国益」というのがあります。これが持ち出されると、なんだかみんな「仕方ないな・・・」という感じになってしまうことが、とてもコワイことに感じます。
まるで「国」というものがはじめからあって、それが一番大切なもののように扱われていることに、なんとなく違和感を感じてしまいます。
「国」っていったい何だろう?その問いかけをいつも自分にしていたいと思っています。
by jmh (2013-05-08 23:45) 

shira

 内田樹が朝日新聞とブログに改憲について書いています(どちらもブログで閲覧可)。彼によると、現在の改憲論は国民国家という安定を基盤とするものから、グローバリズムという流動性を基盤とするものへ世界を変革していこうとするグローバリスト達(国際企業で活躍するお金持ち)の意思を反映している結果であり、このころは改憲という形を取らずとも世界中で進行しているとしています。ご一読を。
 で、私の最近のスタンスは「改憲は当分棚上げしましょう」というものです。護憲か改憲かという軸で議論してもあまりいいことはないです。鈴木邦夫のように改憲は賛成だが5年くらいかけてじっくりやるべきだと主張している人と連帯できると思います。
 震災の後始末もフクイチの問題も片付いていない今、何もあわてて改憲をすることはないのです。今がチャンスだとばかりやるなんてそ姑息です。
 あるいは、改憲は賛成だが、自民党の改憲案では同意できないという人もいるはずで、そういう人とも連帯できると思います。「文句があるなら対案を出せ」の切り返しで「改憲が是だとしても、こんなものは対案としてお粗末だ」と対抗できるでしょう。
by shira (2013-05-09 21:37) 

tamara

jmhさん、私は、「国益」という言葉は常々すごく下品だと思っています。「自分の利益のみを考える」「自分が住む国の利益だけ考える」・・こういうことは、口に出したり、口に出さずに思っているだけでも、卑しいことだと感じます。みんなが平和で幸せに生きることを理想とするなら(ただの理想だという人もいると思いますが、これに反対はできないはず)、その「みんな」には、自分、他人、自分が住む国、他の国、人間以外の生物・・すべてがふくまれるわけで、「国益」など、まったく了見が狭い、豆粒ほどに小さい考えだと、思います。

shiraさん、<「護憲」か「改憲」か>という単純化が一番困ったことですね。仰るように「改憲は今でなくてもいい」と言う方が多くの人と連帯できるでしょう。「護憲派」というくくり方は、様々な考え方をする人々で構成されている世の中から、孤立させられてしまうと思います。それが目的で「護憲派」という言葉が使われているのかもしれませんね。
by tamara (2013-05-09 22:22) 

Ladybird

 改憲か護憲か,という切り口ではなく,「自民党の憲法草案」に賛成か反対か,という問題提示のほうが,話がより具体的になると思います.国とか警察の恣意的な判断で人権が著しく制限される可能性のある草案です.
by Ladybird (2013-05-15 20:53) 

tamara

Ladybirdさん、具体的な議論のためには「自民党の憲法草案」を理解できていないとだめですね。人権を著しく制限する可能性があるものだということを、どのくらいの人が感じているか心配です。「人権」についてあまりにも鈍感な人が多いような気がしています。
「基本的人権」を学校できちんと教えているのか、心もとないです。
by tamara (2013-05-15 23:10) 

ayu15

「個人一人一人が、最大限、尊重されるということである。
こういう根源的な態度をもっていると感じられない政治家はまったく信用できないし、信用できない人間に「憲法改正」など、とてもまかせられる問題ではないと思う。」

同感です。
http://life-ayu.blog.so-net.ne.jp/2013-05-10
祝日です~  憲法記念日 続き
を書きました。



by ayu15 (2013-05-18 16:32) 

Ladybird

 連投失礼します.
 事態は逼迫しています.参院選で多数を取ったら安倍首相は改憲に手を付けるでしょう.
 尖閣諸島やミサイルやらで防衛の必要性をマスコミが喧伝しています.その風潮の中,「9条を変えるな」では選挙で負けてしまいます.
 自民党の憲法草案がいかにひどいものであるか,を選挙までに広く訴えて行く必要があります.

>「人権」についてあまりにも鈍感な人が多い

 その通りだと思います.
 いま首相をやっている人もその1人.
http://plaza.rakuten.co.jp/tosana/diary/201305060000/
by Ladybird (2013-05-23 11:29) 

tamara

ayu15さん、Ladybirdさん、
いつもブログの紹介ありがとうございます。
Ladybirdさんが書かれていた、アベ首相の質疑応答には度肝を抜かれました!まさか改憲を進めている当人がこれほど無知とは思いませんでした。「人権教育」を受けて来なかったのですね、きっと。とても怖いです。参院選も間近にせまっていますし、パニックになりそうです・・。
by tamara (2013-05-23 21:42) 

Ladybird

 tamara様
 しっかり受け止めてくださって,ありがとうございます.この質問をした小西議員(民主党)のブログには大量のヘイトコメントが書き込まれています.困ったことです.
 参院選をひかえて,非自民や反自民の票が行き先を探しています.非自民や反自民の政治家や政党が,票の受け皿を用意できていません.これでは票が分散し,自民党系議員を当選させてしまいます.投票日までもう2ヶ月たらず.安部首相がバンドワゴンの上ではしゃいでいるのに対し,非自民の側の動きがあまりに不活発,あまりに危機感を欠いています.
 何とかならないものでしょうか.
by Ladybird (2013-05-24 00:34) 

Ladybird

tamara様
 自民党の改憲案を扱った動画を,ブログ「高知に自然史博物館を」でご紹介しました.ご参照いただければ幸いです.
http://plaza.rakuten.co.jp/tosana/diary/201306200000/
by Ladybird (2013-06-22 02:40) 

tamara

ご紹介ありがとうございます。
問題は、いくらわかりやすく説明しても、こういう話題にはまったく耳を傾けない人が多いということですね。悲観的ですが・・。
by tamara (2013-06-24 23:29) 

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