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『言霊』 [雑感]

ふだんそんなに丁寧に新聞は読まないのだけれど、
<与謝野馨が鳩山由紀夫をやり込めた国会質問の聞かせどころの一つは、首相の言葉の軽さを突いた「言霊問答」だった。・・>という記事に目がとまった。毎日新聞の2月22日の「風知草ー『言霊のさまよう国』(山田孝男)というコラムだ。
なぜ目がとまったかというと、私はたまたまこの国会質問をテレビで見ていて、とても与謝野馨が鳩山由起夫をやりこめたとは見えなかったからだ。
ここのところの自民党議員の国会質問は、追求している事柄そのものはともかく、言葉のすみずみにいたるまでなぜかうすっぺらで寒々しい感じに聞こえていた。私の感じ方とは違い、あれでやり込めたという感じを受けたのは、どういうことだろう、と、つい記事を読んでしまった。
記事には<そこに食いついた与謝野の追撃が名調子だった。>と、
あのとき私がもっともうすっぺらに感じた言葉が紹介されていた。「言葉ってものは一度口から出るとタマシイを得て世の中をさまようんですよ。だから言霊って言うんですよ。『感情の高ぶりだった』で取り消せるような、そんないいかげんなことじゃ困るんです。一度言ったらダメなんですよ。」

これを聞いたとき私がウンザリしたのは、どこかからうまい引用を見つけて得意げになっている気持ちを、その言葉の中に感じたからである。
さらに記事はこう続く。<後日、与謝野に聞くと、あのくだりは三島由紀夫を下敷きにしたという。・・> やはりそうか。

<政治への傾倒を強めていた三島は、政治の基本は言行一致だとした上でこう言っている。「だから『11月に死ぬぞ』と言ったら絶対死ななければいけない。(中略)それを戦術である、あれは敵をだまかしたのだ、実は死ぬ気はなかったので、戦力はちゃんと温存してあるなどと言う。(中略)これは最低の戦術ですね。欺瞞行動というのですけれども、ぼくはそれはもう言葉がばかにされている段階だと思うのです」・・>

<対談相手の文芸評論家から、万葉集の「倭国は言霊の幸ふ国」という考え方をどう思うかと聞かれた三島は、「言葉が現実を支配している、現実の人間感情は結局その言葉から出てきたものでできている」という感覚だ、と解いている。>

私の不快の原因が山田孝男が三島の言葉を記したことではっきりした。「言行不一致」は良くない、不誠実である、とことあるごとに私たちは聞かされ、また自分でも人に言ったりする。実にいろいろな人がいろいろな場面でこういうことを口にする。ところが「言行不一致」という言葉も、また一人歩きを始めてさまよっているのだ。
いじめを諫めるのに「一度言った言葉は消しゴムでは消せない」と説教していた暴力的教師がいたが、ああいうときに感じる気持ち。言っていることは正しいが・・である。うまい言葉を思いついて(あるいはどこかから聞きかじって)したり顔に使ってみても日頃の言動からはなれているから気持ち悪い。
言行不一致の人が「言行不一致はイケナイ!」と叫ぶと、とてもおかしなことになってしまう。

言葉というものは心の清らかなひと、普通のひと、悪人、すべての人によって同じように使われる宿命を持っている。言葉そのものに「真はありやなしや」と探してみても土台無理なことなのだ。言葉が現実を支配しているとは、あまりにも単純すぎないか。
人間は言葉に支配されるが、支配する側にまわることもある。人が言葉を支配する例はいくらでも見ることができる。たとえば、「愛国心」という言葉ほど、様々に利用されみじめな使われ方をした言葉はないのではないか。

人は言葉に支配されるだけでなく、言葉の後ろにあるものを直感的に感じとることもできる。これは正しい批判をしているのか、それともただ相手をやっつけるためか、と感じることができるのだ。
『風知草』の記事がとても奇妙に思えたのは「言霊」をテーマにしながら、私にはうすっぺらにしか聞こえなかった国会質問のことを、まるで賞賛しているかのように取り上げていたからだ。これではコラムの結び<施政方針演説の文飾だけ凝っても、日常の言葉にタマシイがこもらなければ、民心を奮い立たせることも、鎮めることもできない。>という文もくすんでしまう。言葉をふりまわす、言葉にふりまわされる、とはけっこう本質をついた名言だ、と私もまた言葉を使って言う。
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コメント 6

ayu15

与野党が入れ替わっただけで、「成長」ないですねえ。
民主党は若葉マークですが、自民党は責任政党と自負しているから失望度がより高いです。

昔(日記はじめた初期)公の概念書いたことあります。

この方々の「愛国心」は公の概念と似てそうな・・(笑い)
by ayu15 (2010-02-25 14:51) 

tamara

国会の自民党の質問を聞いていると、今の社会の混乱もさもありなん、と感じます。これでよく、50年も政権をになってきたものです!
by tamara (2010-02-25 20:00) 

herosia

「あなたの意見には賛成できないが、あなたが意見を自由に述べる権利は命に替えても尊重する」という言葉に値しない発言ばかりなのは何故。自民党の諸君はお笑い番組と国政を間違えているのではないのか。少なくともアメリカのトヨタ問題の公聴会には「うければいい」という雰囲気はなかった。よっぽど言霊が宿っていたと思うのだが。鉄幹、晶子の子孫ともあろうものが・・・。
by herosia (2010-02-25 23:31) 

tamara

私も、国会質問とトヨタの公聴会をつい比べてしまいましたが、追求する雰囲気はずいぶん違います。日本の国会が特殊なのかな〜という気がします。その中でも自民党は群を抜いていますよ!
by tamara (2010-02-26 22:47) 

shira

 言霊ということに関して言えば、日頃「私はもうダメだ」と言い続けている人は、その発言を正当化するために、本当に自分がダメになるような方向に努力してしまうということがあるようです。
 というような話はさておいて、国会は一番悪い方向に動いてしまっているようです。
by shira (2010-03-30 01:31) 

tamara

言葉というものはつくづく不思議ですね。誰でも使えるものですが、その人なりに意味は違うし曖昧で、曖昧なまま使えるから困ってしまう。国会の混迷はまさに象徴的です。混迷しているものをまたマスコミが勝手に解釈して報道するのでもうメチャクチャですね。
by tamara (2010-03-30 20:50) 

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