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2009年の終わりに〜教育の質について〜 [教育]

去年の年末は「教育」について書いたので、今年もその続きー私が<地に墜ちた>と感じている日本の教育はその後どうなったかーを考えてみた。断っておくけど、<地に墜ちた>と私が言うのは教育行政のことで、教員のことをさしているのではない。

前政府による教育基本法の改定の準備期間であった頃から、本来なら「教育の質」について問題にすべきことが、「教員の資質の問題」にすりかえられてしまった。いつの間にか、教育の質を上げるためには「教員の資質向上だ」と公然と言われるようになってしまった。政府主導でマスコミがそう取り上げるから、おそらく世論(人々の意識)もそうなったのだろう。

いつから「教員の質の低下」ということがこれほど言われるようになったのだろう。おそらく急に文科省が日本の小中学生の学力低下を言いだした頃に、その責任の所在として教員の質低下ということが持ち出されるようになったのだろう。
そういう世論をつくったうえで、教育基本法改定も強行された。(当然のことだが反対したのは一部の人たちだけだった。)
正規職員ではない一年契約の非常勤職員を増やし、その不満の矛先を鈍らせるかのように、さらにもっと身分不安定な時間給の臨時職員を置くようになったのも、この教育基本法改悪の数年前からだったと思う。

授業時間確保などという言葉が盛んに言われ始め、まるで教員がわざと授業を少なめにやっていたと言わんばかりの宣伝もされた。いろいろな学校行事(文化祭やら運動会やら林間学校やら)や、試験準備や成績処理、学校運営に要する時間を、授業を行っていないと言いだした。
もともと授業の時間などただの目安でしかないものを、どこかの誰かが「授業時間確保!」などわめき立てているだけなのである。
夏休みなどの研修期間はもっとも批判対象になって、教員は職員室に閉じこもって研修せよ、ということになった。教育はこれで「学問」の世界から遠くなった。

教員は疲弊し、当然ながら授業の質も低下し、プロとしての誇りも教員免許更新制などというばかげた制度で奪われ、副校長、主幹、などがおかれ、学問の場にもっとも大切な自由な雰囲気もなくなった。かれら管理職は授業をしないから、平の教員の授業持ち時間数はまったく減らず(平の教員こそが教育を担っているのです)、逆に余計な仕事ばかり増やすことになる。
不必要なところに部署や職務をつくるということこそは、政府が四苦八苦して削ろうとしているムダの正体だと私は思っている。いったん、ある部署が新しくつくられ、もっともらしい名称が付けられ、人が配置されると、それはどんどん不要な仕事を生み出していく。仕事をしないと存在価値を問われるから、自らの存在理由の証明のために次から次に不要な仕事をつくり、予算を浪費し、回りの人の時間までを浪費していく。
こんな風にして、教員が物言う力もなくなり、世論は教員の質低下を責め立てる。これで期は熟した。巧妙に教育基本法は改悪、教育界は政治に息の根を止められた。

全国学力テストが抽出校のみに縮小したこと、教育免許更新制が廃止されること・・事態はすこ〜し上向いてきたかもしれない。それでもまだまだ道は遠い。
民主党は教員免許制の廃止の変わりに教員養成6年にすると言う。こんなことをしたらかつての薬学部のように志願者が減ってしまい、質の低下をくい止めることにはならない、という意見もある。6年がいいかどうかは別として、これもまた教育問題の本質からはずれている感じを受ける。

この間、朝日新聞のオピニオンという紙面で「教員の質」に関して、K塾の元理事という丹羽健夫氏の意見を読んだが、私はとてもまともな意見だと思った。
何かと引き合いに出されるフィンランドは、教員養成6年生なのだが、これをそのままマネをしても教員の質は上がりませんよ、その前にもっとやることがあるでしょ、と丹羽氏は警告している。ただ6年間養成を取り入れたところで教員志願者は逆に減ってしまい、教員の質を上げることにはならない、それよりも今の教員の過酷な労働状況を何とかせよ、教員に十分な研修時間を与えよ、そのために人員を確保せよ、と氏は述べている。
で、まずやるべきことは、
1,一クラスの人数をせめてOECD平均並みにするため教員の数を増やす
2,正規採用を増やし、臨時採用を極力減らす、
3,教員を雑務から解放するため、事務スタッフを増員する。

そういうことをして初めて6年制の導入などを考えればいい、と氏は述べている。(塾関係者からこういう意見が出ていることに驚いたことを付け加えておきたい。)

こういうことはもうさんざん教員サイドや教育学者から言い尽くされてきたことだが、いまだにもってこのわかりやすい方法が実践されないのは単に予算の問題だけとは思えない。予算がなくて十分な教育が行えないことを認識しているならば、「教員の資質向上」のために免許更新制だ、全国学力テストで競争だ、などという考え方は生まれないはずだ。

最近、フィンランド関係の本を読んだが、日本とフィンランドの決定的違いは、教員という仕事が専門職として魅力あるかどうかにあるようだ。
フィンランドはクラスの人数は少ない、授業時間も決して多くはない。教員は十分に子どもに手をかけられる、雑務があまりない(清掃すらない)、研修もしっかり保障されている。これなら教員志願者が多いのもうなずける。時間をかけて優秀な教員を養成することにも意味がある。だが日本は、教員になると思うように授業準備をする時間もない、研修や研究の時間もないという状況だ。

少なくとも学問が好きな人でなくては、教員という仕事は向かないだろう。
そして「学ぶこと」が好きな人が教員になって、学ぶ時間をまったく奪われてしまうとしたら、学校教育という場は、教える方にとっても教わる方にとっても不幸なものとなるだろう。「教育の質の低下」ではなく「教員の質の低下」などという言葉を平気で使う社会は、社会そのものの質が低下していて、しかもそのことを自覚していない社会ではないだろうか。

政権交代したとは言え、長い期間をかけて荒廃させられてきたものが、そう簡単に良い方向に向かうはずもないことはわかっている。それでも今後数年間に良い変化があることを期待したいものである。
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herosia

全ての専門職の本質的職能はその現場においてはじめて身につくのだと思います。そのためには新人を受け入れる職場と新人本人の置かれる環境を整備することが必要です。それは時間的、物理的、精神的な余裕のことです。今から30年前、学校現場にはわずかながらそれはありました。それからそういう意味であらゆる学校は職業訓練の場であってはいけないと思います。これっていまの社会には支持されないでことしょうか。
by herosia (2009-12-31 15:48) 

tamara

フィンランドでは修士課程で教育実習などの実践(授業見学、授業プラン作成などかなり具体的に)を学ぶそうです。ただし、非常にむずかしいと言われているフィンランドの教員採用試験をパスした人も、日本の学校ではその実力を発揮することはおそらくできないでしょう。日本の学校は教員にまったくの余裕が与えられていない特殊な現場ですから。それが一番の問題だと思います。
by tamara (2009-12-31 19:34) 

Shigeru

こんにちは。私立中高一貫校の教員してます。
エントリーに全く同意です。

一つだけツッコミ。
丹羽健夫氏は河合塾の元理事長ではなく元理事です。
理事長は創立者の河合逸治氏以降は息子・孫の世襲になっています。
by Shigeru (2010-01-01 19:35) 

tamara

コメントありがとうございます。
そうでしたか。塾についてはまったく疎いのですが、私としては塾関係者が「教員の定数を増やすことが第一だ」と述べているのにまず驚きました。(志願者の割合と学生の偏差値など、ん?と感じるところもありましたが)
「教育」は「国の顔」をあらわすと思っています。はやく良い方向に向かってほしいものです。

by tamara (2010-01-02 10:36) 

いしやん

tamaraさん、今年もよろしくお願いします。

私たちが民主党に期待したことは、こういったわかりきったことを
即座に改革、実施してくれることでした。
わかりきったことというのは、その現場においてこうすればずっと良くなると皆が思っているようなことです。

予算の関係で暫定税率を廃止できなくてもガソリンがそう高くない今は
あまり気にしていませんし、これは後回しでも結構。
高速道路の無料化についても、しばらくは今のままでも良いし
できるならETC装着車だけでなく、利用者すべてに適用してくれるようにしてくれるか、すべての料金を大幅に割り引くような良心を見せて欲しい。
せめてそれくらいのことはして欲しい。


物事が遅々として進まないのは致し方ない、長いスパンで見てあげようと
思っておりましたが、
最近、遅々として進まないのは、もうずっと進まないのではと思うようになって来ました。
自民党より少しはまともだとは思いますが、明確な進むべき方向が見えないまま、ずるずると小改革だけをして、予算が足りなかったとか
思ったよりも官僚の抵抗が大きかったとか、適当な言い訳だけが残って
先が見えない社会がこのまま続いて行くような…
そんな気がしてしまいます。

もし民主党に本当にやる気があるのなら、せめて貴方が言うように
この教育に関してだけでも、スパッと大胆な改革案を提出して欲しいものです。
子ども手当てを少し削ってでも、高校の無料化を半額手当てに変えてでも
公立の学校教育を充実させ、教師が自信を持って授業に臨めるような体制を、いち早く確立して欲しいものですね。
教員免許更新制を撤廃するといち早く公言したまでは良かったのですが…

なにか最近少しずつズレを感じています。
by いしやん (2010-01-03 11:19) 

大和

今年も、子供は見捨てられたままですか!
 不登校、退学者20万人、精神疾患休職教員5400人。こんな学校に通えば、ひきこもり、ニート、失業者となり、四万人の自殺者が出るのは当然です。
日本国民は、なぜこんなデタラメ教育を許しておくのですか。子供の不幸を見て見ぬふりする堕落した日本人こそ、自民党・官僚政治の愚民化政策が作り出した愚民です。
教育現場から、愚民化教育のおぞましい実態を詳細に暴露したのが「『おバカ教育』の構造」(阿吽正望 日新報道)です。時代錯誤の文科省官僚は、この知識時代に愚民化教育を行い、若者を貧窮させ、犯罪に走らせ、国家衰退を作り続けています。
これは、薬害エイズや薬害肝炎を起こした厚労省官僚を越える大罪です。悪徳官僚への恨みと呪いの声が、親や教師から聞こえてきます。うらめしや、うらめしやと。
今年こそ親たちは目を覚まし、子供を救うために立ち上がるのでしょうか。それとも、薬害肝炎やエイズ、原爆症患者、沖縄と同じに、日本人は子供を見捨てるのでしょうか。

by 大和 (2010-01-03 15:56) 

tamara

>いしやんさん、確かに民主党政権には期待はずれという感じが強くなってきましたね。前よりはましだとしてもだんだん同じになってしまうのではと心配です。小改革はしても本質にせまった改革をする気概が感じられません。あまりにも長い間一つの政権が続いたため、様々な仕組みすべてが硬直化しているのだろうと察しはつきますが、だからこそ誰の目にも善い、正しい、と感じられることに積極的に取り組んでほしいのですがね。

>大和さん、教育というのは日々の暮らしという下世話なことではないため、せっぱつまった課題としてとらえる人が少ないのだと思います。そのせいで教育がなおざりにされたままなのでしょう。教育の成果というのがすぐに見えるものではないことも災いしていると思います。教育を見れば、その国がどういう国かわかってしまいますね。

by tamara (2010-01-04 17:48) 

hm

大変分かりやすく、勉強になりました。

 教師が力を発揮できるような条件整備ということが、文部科学行政の主眼になくてはならないところがそうなっていない。
 そうなっていないところで、あれやこれや的外れな努力を要求しても皆が苦しむだけで成果も上がらない、私もそう思います。
by hm (2010-01-15 10:04) 

tamara

hmさん、ありがとうございます。
どんな仕事もそうでしょうが、自分の持っているものの「切り売り」をしているだけでは希望もなくなるでしょう。専門分野をもっと深める、技術をもっと磨ける、社会のことにも目を向けられる・・ということが、人が働く上でとても大事な環境だと思っています。今教員に必要なのは「時間」そのものです。
by tamara (2010-01-15 22:45) 

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