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公教育 [教育]

もう卒業式、入学式のシーズンは過ぎてしまったが、この間、朝日新聞の論壇時評というコラムに高橋源一郎氏の<入学式で考えた〜ぼくには「常識」がない?>という文を読んだ。久しぶりに、そうでしょう、そうでしょう、と心が和んだ。

<小学校の入学式に参加したら、保育園の卒園式に比べて、何だかちっとも感動しない。偉い人が壇上に上がるとき、誰もいないのに日の丸に向かってお辞儀をし、何のためにそんなことをするのかわからない、ぼくに「常識」がないのだろうか・・。国歌斉唱になりだんだん憂鬱になってきてしまった。誰がこんなやり方を決めたんだろう、小学校の入学式は子どもたちのためのものではなく、キョウイクイインカイとかそれを指導しているえらい人のための式なんだ、だからイヤになっちゃうのだ・・>というようなことが書かれていた。

本当にそうなのだ。えらい人がもったいぶって誰もいない壇上にうやうやしく礼をする。式の流れは全国一律であって学校ごとの特色や工夫はない。(特色は出してはいけないことになっている。)本来主役であるはずの子どもたちのことは二の次で、教育委員会や管理職は全国一律の式を行うことだけを至上命令としている。こういうのが教育界の「常識」だとすれば私もずいぶん常識からかけ離れていることになる。

大阪維新の会というのが中心になっておかしな教育条例を作ったとき、本当にこれを大阪の人々はこれを受け入れるのだろうか、と思ったが、なんせ条例などというものは密接に関わっていない人にとっては、ことの深刻さも異常さも伝わらないものだ。条例案を真剣に読んでみる人がどれだけいるだろうか。
結局、大阪では教育基本条例が通ってしまい、卒業式だか入学式で、校長が国歌斉唱の際に教員がちゃんと歌っているかどうか、教員の口元をチェックしていたという話がニュースになった。
こういう話は、他国の人にはおよそ理解できないだろう。

生徒の卒業や入学を祝う大事な式(一応、大事という言葉を使っておこう)の中で、子どもたちのことを心から祝うどころか、条例違反はいないかと「口元チェック」していた校長やら管理職メンバーは、教育者としてはまったく失格である。人格的に大問題だと思う。

この事件がどのように世間を騒がせたのか、それとも騒ぎにもならなかったのか、あまり新聞を読まなかった私はよくわからなかった。でも、私の「常識」からすればとんでもない事である。
世間一般では、「公務員なんだから法律は守らなきゃ」「国歌斉唱が嫌だという人は公立の教員にならなければいいんだよ」など、これもまた平然と言う人がいて、世の中変わったのか、それとも昔からずっとこうだったのか・・どうもわからなくなった。

「公教育」という言葉が誤解のもとかもしれない。短絡的に「公のための教育」という風にとらえる人がけっこう多い。確かに公共の精神を学ぶというのも教育の一部ではあるが、「公」を「国家」としてしまうとおかしなことになる。
私は、公教育とか義務教育の意味(目的)は、国民の教育を受ける権利を、国や地方自治体が責任を持って保証するということだと思っている。国民を国に隷属させるためのものではない。
公務員も、国家の番人という意味ではないと思うが、いつのまにか、公務員は政府の言うことを黙って聞け、教員は国家政府の意向に沿うような教育をし、政府の命令に黙って従え、というふうに意味が歪曲されて解釈されているようである。

1999年、日章旗を国旗、君が代を国歌とする、という国歌国旗法が作られたとき、強制はしないという首相答弁があり、まだ遠慮深さというものがあった。
それも、たった15年の間に見事に変わった。
「口元チェック」など、「一体どこの国の話か?」と、国際的に考えても恥ずかしくなるが(日本は一応、民主主義国ですよね)、たいして問題にもされなかったようだ。

しきりに憲法改正をやりたがっている政治家がいて、そういう輩が出す案というのには「国歌、国旗を尊重する」という項目がわざわざ入っている。なぜかはわからないが、国歌国旗というものが、特別に大切なものらしい。
国歌や国旗を特別に大事と思っていない私などは、そのうち「非国民」ということになるのだろうか。
「尊重しないなら日本人やめろ」とか「イヤなら日本から出て行けば?」など言われるのだろうか。
たかだか15年前に作った国家国旗法案をふりかざし、これがいやなら教員をヤメロなどと言う人がいるのだから、まったくふざけた話だ。

もっとも、国旗や国旗に対する不思議な「執着」というのは、普遍的「常識」に含まれないからこそ、わざわざ法律で縛ろうとやっきになる人間が出てくるのかもしれない。
ということはつまり、私の方が「常識」がある、ということになるか・・。

えらい人たちが考えるところの「公教育(日本の教育)」から身を守るには(あるいは子供たちの身を守ってやるには)どうすればよいだろうとあれこれ考えるが、いい案は浮かばない。
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shira

 いろいろ言いたいことはあるのですけど、一つだけに絞らせてもらうと、改憲だの教育基本条例だのというのは、3.11以前の世界でこそ盛り上がるネタなんじゃないでしょうかね。大震災とフクイチの事故が全然片付いていないときに、憲法だの教育だのと遊んでる場合じゃないでしょうに。
by shira (2012-05-05 23:01) 

tamara

原発事故以上の大事な問題というのはないのですが・・。
政治家にとっては、原発事故とそのほかの問題は同レベルなのでしょう。改憲に関しては原発問題より大事と考えているのでは?憲法や法律を変えてしまえば何だってできるわけですから。
by tamara (2012-05-06 08:41) 

jmh

公教育は決して国家のための教育などではない、「公」すなわち国や地方公共団体が教育の機会を保障するということだと小生も思います。そしてそこで育むべきものは、民主主義社会を構成する人として必要な資質、つまり主体性を持った自己の確立だと思うのです。
昨今の風潮はなんだか「お上」に逆らうことが罪悪のようになっていますが、とても危険なことだと思います。とりわけメディアはその責任と役割を考えて仕事をしてほしい。今のマスメディアは、まるで戦前の「翼賛体制」のようで、はっきり言ってコワイです。
by jmh (2012-05-06 21:27) 

tamara

教育は「国」というものの基盤になるものだと思いますが、その『重要性』は、なぜか表には出てきません。表に現れない仕組みそのものが実はすでに教育によってつくられている、という悪循環があると思います。
「こんなおかしなことがあるよ」と回りの人にできるだけ伝えることしかできないのですが、焼け石に水ならぬ水滴にもならないですね。あっという間に「翼賛体制」になる可能性があることがとても心配です。
by tamara (2012-05-06 23:43) 

ayu15

うちもいっぱいとりあげてます。
公はある人曰く日露戦争でかわったとか。

また公は公共の福祉から公共秩序にかわったとか??

国歌云々の人ばかりでなく、自分が我慢してるのにあの人たちは我慢せず主張している特権階級だ!なんていう心情とか。

他にもいろいろありますが興味持たれたらうちの日記どうぞ。

空の防人などにみられるような暗雲がでそうな??空気という独裁者が具体化した時怖いことになるのかもしれません。
by ayu15 (2012-05-09 08:41) 

tamara

小さな政府、大きな政府という言葉がありますが、思想の締め付けには強大な政府、社会福祉には貧弱な政府、というのが今の日本の顔でしょうか。本当に不愉快です。
by tamara (2012-05-13 19:47) 

mai

本当にごぶさたしています。ようやくブログ封印を解いたまいです。その話には、私も怒りを通り越して開いた口がふさがりません。そろそろ脱日本(私はムリでも子ども世代)が視野に入ってきました。私なりの一歩を踏み出した??ことになるかどうかわかりませんが、生活を変えてみました。よろしかったら新ブログへ一度おいで下さい☆
by mai (2012-05-30 22:54) 

tamara

maiさん、本当に本当にお久しぶりです!
大学生になられたのですね。
さすが行動力、決断力のmaiさん。最近、私の身近なところでは、日本を出て住むとしたらどこがいいか、という話題が増えています。
もう私はどうでもいいや、と思ったりもしますが、子ども世代のこれからを考えるとかなり暗い気持ちになります。

新ブログ楽しみにしています。これからまたよろしくお願いします。
by tamara (2012-05-31 23:12) 

mai

私が持っている日本と教育に対する絶望に近づきつつある悲観的な感覚は、私が知っている限り、tamaraさんと一番近いように感じます(違っていたらごめんなさい)。「日本を出て住むとしたらどこがいいか」を探るのも入学も目的の一つです(^^;)。日本語専攻の教官や先輩方の間では、タイファンが多いです。「バンコクに着くと、ふるさとに帰ってきた気がする」という人までいます。まあ、日本語学習者がタイに多い(つまり日本語専攻を出た人の就職口が多い)ということもありますが・・・。
by mai (2012-06-01 19:57) 

tamara

お返事遅くなってごめんなさい。風邪をひいて、一度治ったのにまたぶり返し、という感じでパソコンを見ることもできませんでした。
私も<日本と教育に対する悲観的な感覚>は、maiさんととても近いと感じています。私たち、とっくに見切りをつけていますよね(笑)(何と言っても教育基本法改悪の絶望を味わった同士ですからね。)
それで最近はもっぱら、日本の教育からどう身を守るかを考えてしまうのです。いい案がうかばないので「ま、もう日本の将来についてはどうなってもいいか〜」など不謹慎なことを思ったり・・。
maiさん、私の分も大学で勉強して教えてくださいね。

by tamara (2012-06-07 23:36) 

ayu15

話題の某自治体トップ
国歌推進とともに
地方公務員をせめて国家公務員並みに制約方針ですね。

最近知ったんですが
地方公務員法と違い
国家公務員法は占領軍の命令?で出来たそうです。

そうある方々の大嫌いなおしつけ法です。
でもこちらは「破棄せよ」とは言わないようで(-_-;)
by ayu15 (2012-07-09 09:08) 

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