SSブログ

イワナの不思議 [環境・自然]

川の中だの海の中だの山奥深くに生きている生物は、ふだんいつも見られるわけではないけど、いったん気になり出すと大きな存在になってくる。
標高1100mの長野山中の家の前の小さな川にいるイワナも毎回探して見ているうちにどんどん愛着が湧いてきた。いくら見ていてもまったく飽きない。見えない日はガッカリしてしまう。
この川は幅が1mもないが、100mほどの区間に、比較的大きいイワナ2匹と、今年生まれらしき稚魚4匹を確認している。稚魚は春には8cmほどで細かったのが、今では長さも12cmぐらい、色が濃くなり身体もふっくらしてきて、精悍なイワナの面影が出てきた。

家のすぐ南側にいるイワナをイワタロウと名付けた。北側のは稚魚なのでコタロウと呼ぶことにした。昼間はどこにいるのかめったに姿を見せないが、夜にはいつも定位置に横たわっている。川底の少しくぼんだ場所。まるで人のベッドに横たわるごとく。(夜、イワナは寝ているからライトで照らして見ることができるのだが、驚かせないようあまり照らし続けないようにしている。)

10月中旬にイワタロウの横にもう一匹の少し小ぶりのイワナが寄り添っていた。しばらくして2匹でぐるぐる川底を回り始めた。「これは、もしかして産卵行動!」と胸が高鳴った。
そのうちもう一匹のイワナはいなくなり、またイワタロウだけが定位置にいる姿を見た。そして、11月初旬、ついにイワタロウの姿も見えなくなってしまった。
イワナには下流に降りるものと支流に残るものがいるそうだ。もっとも家の前の流れは幅が1mにも満たないような小川なので、支流の支流だけど。
さて、家から数メートル下はもうU字溝になってしまう。雨が少ないときは深さ2cmぐらいしかなく、それがずっと下の湿原の本流につながっている。
もしイワタロウが下に向かったのだとすればもう上には上がって来れないだろう。U字溝を無理して上ってきたとしても上れない場所がある。

IMGP0163.jpg

当歳のコタロウはまだ上に留まっていた。イワタロウもどこかもっと上流に産卵場所を探しに行ったということもあり得る。イワナのペアは2,3カ所、場所を変えて産卵するそうだ。
これは『イワナをもっと増やしたい!』(中村智幸著/フライの雑誌社新書)という本から得た知識。この本にはイワナについて知りたいことのすべてが書かれている。イワナの形態、年令の調べ方、イワナの種川を残す方法、産卵床をつくる場所の条件・・などなど。
イワナを、「天然魚」「野生魚」「養殖魚」「放流魚」と分類する、というあたりを読むと、川に対して人がいかに無神経にふるまっているかを、思わず考えさせられてしまう。釣りが趣味という人はけっこう多いだろう。その中で渓流釣りが好きという人もけっこうな割合を占めるだろう。だけど、この本に書かれているようなイワナのすべて(イワナを守るための方法の細部まで)に興味を持つ人は案外少ないかも知れない。100人に一人までいかないのかな。
それにしても著者が携わってきた、長年のあきれるほど地味なフィールドワークには感動させられる。こういう人たちのおかげで私のような素人にも、何をしてはいけないか、していいか、が少しは理解できる。本の背表紙には『釣り人、漁協、水産行政の皆さんへ。』と著者の言葉がある。

家の下のU字溝は3kmくらい下でまた自然な川へと続いていて、台座法師池に流れ込んでいる。ひっそりしたとても良い場所だ。
IMGP0143.jpg
nice!(5)  コメント(12) 

nice! 5

コメント 12

ayu15

イワナて知らなかったです。
by ayu15 (2009-11-16 07:49) 

jmh

すばらしい環境ですね。川がすぐにU字溝になってしまうというのが悲しいけれど、かつては何の疑問もなく、治山事業や災害対策でコンクリートものが使われていました。小生の住む田舎町でも全く同じです。
そんな中でも「もともとの自然」がなんとかがんばっている・・・tamaraさんのところの岩魚の姿に、そんなたくましさと自然の大きさを感じました。
こちらの地元では、総選挙以来八ッ場ダムが大きな話題になっています。様々な問題をはらんでいますが、最終的には自然とどう向き合っていくのかという意識の問題に帰結するのかと思います。
「元に戻せないもの」があることを常日頃意識して暮らしたいものです。
by jmh (2009-11-16 22:15) 

mai

tamaraさん、こんにちは。
「自然な川」の写真に感動しました。こういう川、日本の都市部ではまず見られませんものね。いま、北欧の児童文学にはまっていて、リンドグレーンの「やかまし村」を映画化したものを見たりしています。北欧にはこういう川がいまでも多いといいなあ〜と願っています。

子どもの足が丈夫になってきたので、休みには時々近場のハイキングに行っています。ある山麓の渓流でようやくメダカを見つけました。ずっと探していたのですが、こちらに引っ越してきて初めて自然のメダカに出会えました☆
by mai (2009-11-17 18:37) 

tamara

>ayu15さん、イワナは川のもっとも上流に住む魚です。美味しいんですよ。私は今はめったに食べませんが。
by tamara (2009-11-17 19:37) 

tamara

>jmhさん、イワナを見つけたときは、こんな所にまだいたのかとびっくりしました。国立公園ですがかなり人の手が入っています。それでも人目につかないような小さな川に、イワナがいて川沿いにオニヤンマも蛍もちゃんと生きている、というのは、すごく嬉しいです。こちらが謙虚になりますね〜。
ここのイワナが「天然魚」なのか「野生魚(養殖魚が放流されて生きのびたもの)」なのかこれからもっと調べたいと思っています。
by tamara (2009-11-17 19:50) 

tamara

>maiさん、こんにちは。
そう言えば、この川の雰囲気は北欧の田舎の川と相通じるものがありますね。フィンランドやオーストリアにはこんな場所が多くありました。「自然を守っていこう」という気運は少しずつ高まっているように思うのですが(私の希望的観測?)、手遅れにならないうちに保護したいものですね。
それからこの川のすぐ近くにはグリーンヒルズという小中学校があります。「きのくに子どもの村学園」やアメリカの「サドベリー・バレー・スクール」をモデルに2005年に設立されたそうで、すごくいい環境の中でいつも子ども達が楽しそうに活動しています。
by tamara (2009-11-17 20:14) 

mai

tamaraさん、グリーンヒルズ知ってますよ!毎年11月に「きのくに」主催で自由教育のシンポジウムが開かれるのですが、2年前が小学校編でグリーンヒルズの子どもたちも出席していました。乗馬もできる素敵な学校ですよね。今年も今週末にそのシンポジウムがあるので、行く予定をしています。今年は高校編で東京シューレや韓国の自由教育の学校が紹介されます。
by mai (2009-11-17 20:57) 

tamara

maiさん、ご存じでしたか。山の麓の小さな学校・・クリや楓の木の下で遊んでいる子どもたちの風景は、童話の中の世界のように見えます。山や林や川に囲まれた学校というのは、今やめったにない贅沢なものですね。
by tamara (2009-11-17 21:30) 

shira

 以前とある釣り堀に行ったところ、マスの釣り堀にイワナが混じっていて、これを子どもが釣り上げました。釣り堀と言っても山間地の公園で、水の出入りが結構ある池でして、上流から流れてきたんだろうと係の人は行ってました。
 もちろんそのイワナは塩焼きになって私たちの胃の腑に納まりました。
by shira (2009-11-17 23:51) 

tamara

イワナの素性を調べるのはすごくむずかしいみたいです。ここの川を訪れる人はみなこのイワナを「美味そうだ」と食べたがります。それで名前を付けて「ここでの釣りはダメ」と釘をさしておくのです。
by tamara (2009-11-18 19:54) 

いしやん

御無沙汰です。
90歳の母が急に永眠して、バタバタしておりました。

岩魚ですか?
九州にはまず居ませんね。
山女は数多く居ますが、私は未だかって岩魚は見たことがありません。
「つげ義春」の作品で、東北の名もない田舎の川渕で
尺岩魚が堂々と泳いでいるのを見て心臓がドキドキするくらい
感動するシーンがありますが
私にとっても岩魚はそういった存在です。
岩魚が住んでいる川の水は、まず間違いなく飲めるそうです。

いいところにお住まいで、羨ましく思います。
by いしやん (2009-11-20 17:01) 

tamara

大変だったのですね。家族の死というのは本当に重く乗り越えがたいものです。これでちょうど良い「生」はありませんから。
イワナは地球の平均気温がもう少し上がったら絶滅してしまう魚です。標高が1100mなので他より水温も低いのですが、水量が少ないとやはりイワナにとっては厳しい環境となります。雨を気にしたり、川を汚す工事はないかと心配したりしています。
by tamara (2009-11-20 19:36) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
元に戻せないもの普天間基地問題 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。